<同棲>

「もうすぐ、クリスマスね・・・」
 夕食の後のくつろぎの中でKEIKOがポツリといった。テレビがクリスマス商戦で賑わう街の喧騒を伝えていた。
「プレゼントは何が欲しい?高いものは無理だけど・・・」
 そんな私の言葉に、
「なんでもいい・・楽しみにしてていいの?」
 瞳をくりくりさせながら、彼女は笑った。

 しばらくしてKEIKOも家の近所の工場にパートで勤めを始めた。
「家にいても時間がもったいないでしょ。」
 何かを考えているようだったがそれだけしか言わなかった。私も彼女へのプレゼントの品定めで頭の中は一杯だった。

 そしてクリスマスイブの夜が来た。

 私は約束のケーキと小さなプレゼントを胸に、ちょっとわくわくしながら帰路を急いだ。
帰宅してみると部屋の明かりが消えていた。KEIKOは留守のようだった。
 どうしたんだろうといぶかりながら私はドアを開けた。途端に明かりがついてパン!とクラッカーが大きく鳴った。
「メリークリスマス!」
 華やいだKEIKOの声が響いた。

 部屋の中はにぎやかに飾り付けがされて、小さいがツリーも用意されていた。炬燵の上にはシャンペンまでもが並んでいた。
「びっくりしたなあ!」
 ちょっと大袈裟におどろいて見せた私に、嬉しそうに彼女ははしゃいで見せた。
「ねえ、見て見て!」
 うながされて部屋の隅を見ると、そこには真新しい机が置かれていた。
「これは・・・?」
 驚いている私に、
「だって、お仕事するのに必要でしょ?気に入った?」
 KEIKOの嬉しそうな声がはずんでいた。
「新品じゃないけどいいよね?」 
「ああ・・・・」
 私が最近時間外にアルバイトで始めたデザインの仕事を思ってのプレゼントだった。KEIKOがそのために始めたパート勤めだと思うと、よけいに言葉が出なかった。私は黙って彼女を抱きしめた。精一杯の感謝の表現だった。

「良かった!さあ、乾杯しょ!」
 彼女にうながされて私は炬燵に座った。小さなケーキを挟んでグラスが二つ並んでいた。
「カンパ〜イ!」
 二人の真ん中でグラスが小さな澄んだ音色で鳴った。琥珀色の細かな泡がグラスの中で踊った。

「俺からのプレゼント・・・!」
 私は、ケーキにナイフを入れようとしていたKEIKOの手を止め、ポケットの小さな包みを取り出すとその手の上に置いた。
「開けていい?」
 うなずく私の前で彼女の細い指が器用に包みを解いた。淡いブルーの小さなケースが姿を現わした。
「・・・・・」
 KEIKOは無言のまましばらく箱を見つめていたが、決心したようにケースの蓋を開けた。中から小さな緑色に光る石のついた細いリングが顔を出した。彼女の誕生石の指輪だった。
 彼女の瞳がみるみるうちに泪で満たされた。そして小さな光の粒になって溢れて落ちた。その泪の粒がそのままリングになったような感じだった。

 私はKEIKOの指にゆっくりとリングを通した。
「今はこんなものしか上げられないけど・・・」
 私のそんな言い訳に首を小さく横に振りながら
「あ・り・が・と・・・」
 涙でくしゃくしゃの笑顔で彼女が応えた。

 私はKEIKOを後ろから抱えるような形で炬燵に座って、テレビのクリスマス番組を見つめていた。二人は無言だった。心地良い充足感が私たちを満たしていた。

 KEIKOは、時折自分の指の小さな輝きを見つめては、少女のような笑顔で私を見上げて微笑んだ。それに応えるように、私は良い香りのする彼女の髪にくちづけを返した。

 空になったグラスに写ったツリーの小さな明かりが、微笑むように点滅をくり返していた。二人だけのクリスマスイブの夜が静かに更けていった。

つづく

目次へ