<同棲>

 再会の日から一週間ほどたった、ぽかぽかと暖かい小春日和の日曜日だった。

 私はアパートの部屋でひとり、気の抜けたような朝を迎えていた。南側の窓から差し込む陽射しが、狭い部屋の壁に大きな亀甲模様を作っていた。

 あれからKEIKOとは毎晩のように会っていた。明るい以前の彼女のままだった。そうふるまっていただけなのかも知れなかったが、私にはそれで充分だった。

 今朝も、まだ部屋に昨晩の彼女の香りがほのかに残っているようで、私は目を閉じて茫洋とした充足感に浸っていた。

 突然の激しくドアをたたく音に、私は一気に眠気を覚まされた。
「ねえ、開けて〜!」 
 ドアの外に、両手一杯に荷物を抱えたKEIKOが立っていた。

 あわてて衣服を着込んでいる私を急かしながら、彼女は抱えていた荷物を部屋の中にほうりだすとニコニコしながら言った。
「引っ越してきたの! 荷物運ぶの手伝って!」
 部屋の外には近所の電気屋の軽自動車が止まっていた。店員らしき若者が大きな荷物の縄を解いていた。
「テレビよ!最新型よ! 他の荷物もいっしょに運んでもらったの」
「買ってきたのか?」
「ううん!あいつの置き土産・・・嫌?」
「別に良いけど・・・」

 ひと騒ぎの後にいつもの静寂がもどった。

 狭い四畳半の私の部屋に、およそ似つかわしくない大きな物体が鎮座していた。当時大流行していた家具調の大型テレビだった。リモコンもまだ目新しかった頃だ。
そこだけ妙に高級な雰囲気で、飾り気の無い部屋の中で威容を誇っていた。他には可愛い冷蔵庫に小さな整理ダンスと小物だけの、ささやかな引っ越しだった.

 一息入れると、KEIKOはそそくさと部屋の模様替えを始めた。カーテンを替え棚を飾り花を活けると、部屋は見違えるように華やいでみえた。私には一度に春が来たような幸せな気分だった。楽しかった。こまめに動き回る彼女がさらに可愛く思えた。

 部屋の片づけが一段落すると急に空腹をおぼえた。朝から何も食べていなかった。私たちは小さな炬燵の上で額を寄せ合うようにして、インスタントラーメンの遅い昼食を始めた。美味しかった。

 鼻の頭にうっすらと汗を浮かべているKEIKOの顔を見ながら、これから始まる彼女との生活を考えると私の顔に思わず笑みが洩れた。
「何? なんか変?」
 スープをすすりながら、彼女が聞いた。
「ううん!なんでもない・・・」
 心の内を気取られぬように、私はテレビの画面に目を移した。

「ねえ、晩ご飯何にしようか。何が食べたい? そうだ、これからスーパーへ行こうよ。そこで考えよう。」
 KEIKOは勝手に自分だけ納得すると美味しそうにまた麺を口に運んだ。

 外で近所の子ども達の声が走って消えた。静かで満ち足りた気分の午後だった。

 こうして二人の同棲生活が始まった。

 明るい彼女はアパートの住人達ともすぐに打ち解けていった。
「よかったわね。」
 隣の主婦が意味深な笑みで私を冷やかした。 

 きちっと朝食を食べて出勤し、帰宅すると晩ご飯の良いニオイが私を待っていた。
「本を見ながらだから、美味しくないけどごめんね。」
 KEIKOはすまなそうに笑ったが私には最高だった。ちょっと辛めだったが彼女の料理は美味しかった。毎日が夢のような楽しさだった。 

つづく

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