<出会い>

 11月中旬、KEIKOがいなくなって2週間ほどたっていた。

 その日はやけに風の強い夜だった。時刻は深夜を回っていた。
 四畳半のアパートの自室で寝床代わりの炬燵でウトウトしていた私は、突然の電話の音で目を覚ました。KEIKOの叔母からだった。彼女が自殺未遂で病院に運ばれたという。うろたえた叔母の声が泣いていた。

 私は教えられた病院に急いで駆け付けた。KEIKOの叔父や叔母、従兄弟達が廊下に集まっていた。皆がひそひそと小声で状況を聞きあっていたが、私の姿を見ると避けるように目をそらした。
「大丈夫!命に別状は無い。大丈夫だ・・・」
 叔父がそう云って私の肩を叩いた。
「会えませんか?」
「今日は無理だ。また連絡するから・・・」
 そう云う叔父の強い言葉にうながされて、しかたなく私はそのまま病院を後にした。

 帰りは家まで歩いた。
自宅のアパートまで5キロ程はあったが遠いとは感じなかった。それより私はなぜか嬉しかった。歩きながら思わず笑みがこぼれた。大声を上げたい衝動に駆られた。安心したというよりKEIKOに再び会えるということがなにより嬉しかった。ひと気の無い大通りの街路灯の明かりまでが華やいで見えた。
時折空席のタクシーが乗れよというようにスピードを落して近寄っては行き過ぎた。気がつくと東の空が少し明るくなっていた。寒さも感じなかった。

 次の日、KEIKOの叔父から電話が入った。2〜3日で退院できるという。すぐにも病院にという私を、叔父は落ち着くまで待ってくれと云って遮った。事情が事情だけに、私もそれ以上の無理は言えなかった。

 仕事から戻ると、私は家に閉じこもってじっと連絡を待った。このまま、また彼女がどこかへ行ってしまいそうで不安だった。

 それから5日目の夜だった。
 私は小さくドアをたたく音に眠気を覚まされた。時刻は午後の10時を少し過ぎていた。
いまごろ誰だろう?と思いつつドアを開けると、首を少し斜めにしてうつむき加減に微笑むKEIKOの顔がそこにあった。

 KEIKOは、驚いている私の脇を無言のままスルリと抜けて部屋の中に入って来た。
「驚いた?・・・いろいろごめんね・・・」
 彼女はそれだけいうと、呆然としている私の前でそそくさと衣服を脱ぎ、下着姿のまま炬燵にもぐった。

「・・・・・・」
 言葉はいらなかった。二人の熱い息づかいだけが部屋に満ちた。

 しばらくして、部屋にふたたび静寂がもどった。

 私たちは仰向けに並んで黙ったまま暗い天井をみつめていた。心地よい疲れが二人の身体を包んでいた。炬燵の中の裸身が少し汗ばんでいるようだった。
 天井の蛍光灯が時折ジジッとなって小刻みに瞬いた。

「寝た?・・・」
 そういいながら、私の腕を枕にしていたKEIKOが少し身体を私の方によじった。やわらかくあたたかい彼女の胸の膨らみが私の胸に触れた。

「聞いてくれる?・・・」
 KEIKOはそういうと、私の返事も待たずに話しはじめた。
横浜での恋愛のこと。彼が大阪に転勤になったこと。彼を追って大阪に来たこと。そして彼には妻子がいたこと・・・。

 KEIKOは、まるで自分の心を確かめるように、言葉を選んでポツリポツリと話を続けた。 彼の用意したアパートでひとり彼の来るのを待っていた日々のこと。淋しさと情け無さに死んでもいいと睡眠薬を飲んだこと。そして、気がついて自分で救急車を呼んだこと・・・。

「もういいよ・・・」
 私はKEIKOの髪をゆっくりなでながら話を止めた。

 しばらくの沈黙の後、私が口を開いた。
「・・・なんで、もっと前に話してくれなかったんだ?」
「ごめんね・・・ずっと話そう話そうと思ってたの・・・でも・・・」
 そこまでいうと、KEIKOは私の胸に顔を埋めるように身を寄せてきた。その肩が小刻みにふるえていた。
「解った、もういいから・・・」
 私はKEIKOの肩を包みこむように抱き寄せた。私の胸の上で彼女の目からあふれた涙が光って散った。

 二人の中でまた熱いものが沸き上っていた。すべてを忘れるかのように、私たちはふたたび激しく求めあった。

つづく

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