<別れ>

 平成3年春。子供達が家を出てふたりだけの生活が始まって一年が過ぎようとしていた。
KEIKOの釣りと人形作りの日々も、どうやらペースをつかみ落ち着きを見せていた。

 長男は家の経済を考えて家庭教師のアルバイトに励んでいるようだった。次男も都会暮らしにも馴れて落ち着きを見せていたが、難解な課題の多い授業にはあいかわらず手こずっているようだった。

 私の仕事もまずまず順調だった。最近は地域の産業振興に係わるコンサルタントのような仕事も増えて、県内を東奔西走することも多くなっていた。ときにはKEIKOも同行して、私の仕事が済むまで近くを散策するのが楽しみになっていた。

 平成3年10月20日。秋らしい快晴の爽やかな日だった。庭のケヤキの葉もすっかり色付いて、吹き寄せる風にハラハラと舞い落ちて踊っていた。

 私は、ある組合の新製品の開発にからむデザインのプレゼンテ−ションを明日に控えて、最後の仕上げに追われていた。

「ねえ、ひさしぶりに行かない?」
 KEIKOが釣りに誘ったが、忙しかった私はそっけない返事を返した。
「つまんないの・・・」
 彼女はしばらく居間で人形作りをしていたが、やがて意を決したように立ち上がった。
「ちょっと行って来るね!」
 そう言うと、そそくさと出かけて行った。

「つまんない〜!」
 ブツブツ言いながら彼女は1時間程で戻って来た。何も釣れなかったようだった。
「コーヒーでも飲もおっと・・・ねえ、一服しない?」
「ああ・・・」
 私もちょっと疲れを感じ始めていた時だったので、それにはすぐに応じた。

 その日、私は夕食もそこそこに仕事に没頭していた。明日のプレゼンはそれだけ大事な仕事だった。
「頭痛がするので先に寝るけど・・・」
 そう言うKEIKOの言葉にも上の空だった。

 夜の10時過ぎ、私が仕事に区切りをつけて寝室に入ると、彼女は小さな寝息を立てて眠っていた。
 私がベッドに入ると、その振動に気が付いてフッと目を醒ましたが、
「おつかれさま・・・ごめんね・・・」
 そう言うといかにも眠そうに大きなあくびをして、またすぐに軽い寝息を立て始めた。
私もすぐに眠りに落ちていった。

 そして、運命の朝を迎えたのだった。

つづく

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