<仙台>

 お正月には帰郷しないという長男を訪ねて、私たちと次男の三人で仙台へ出かけた。見覚えのある景色にいちいち感動する妻の声をやり過ごしながら、私は東北道を車を飛ばした。
午後には懐かしい杜の都の、すっかり葉の落ちたけやき並木の下を走っていた。夜には美しいイルミネーションに彩られ、街のシンボルとなる並木路だ。

 ほとんどの学生たちが帰郷した明善寮は、恐いほどに静まり返っていた。廊下や台所、トイレなどの汚さは相変わらずのもの凄さだった。長男は家庭教師のバイトとかで留守だった。
 今夜は彼の部屋で皆でゆっくりすることにしていたので、KEIKOは夕飯の支度を始めた。だが、まずは台所辺りの掃除が先決だった。彼女は山のようなゴミを主婦らしい手際の良さで片付けていった。
 一方、私はトイレの掃除を始めた。床に散らばった新聞紙や雑誌などを集め、こびり着いた汚れを水で流しながら、よくもここまで汚せるものだといつか感動さへ感じていた。

 掃除が一段落すると、そそくさとKEIKOが料理を始めた。ひさしぶりの家族だんらんということで、長男の好きなすき焼きの準備と、途中で買い入れたタラバガニを焼き始めた。香ばしい匂いが台所のある廊下に漂い始めた。そして事件が起こった。

 しばらくすると、台所と廊下はかなりの煙りに包まれていた。あわてて換気扇を回したが、汚れて回転力が落ちていたのか効果が無かった。仕方なく窓を空けて換気をしようとした時だった。どこかで火災報知器が鳴り始めた。続いて寮内中に火災発生の放送が流れ、どこに居たのか数人の若者がドカドカと走って来た。手には消化器が握られていた。
「火事はどこですか?」
「何があったんですか?」 
 ポカンとしている私たちに矢継ぎ早の質問が浴びせられた。
「料理の・・・カニの・・・換気扇の・・・」
 KEIKOの説明で事情を呑み込むと、
「ここであまり大袈裟な料理は困ります!」
 責任者らしき若者が少しどなり気味に言った。
「ここの煙り感知器、神経質なんです。」
 気の良さそうな別の若者が、気の毒そうな顔で付け加えた。
「以後気を付けて下さい!」
 そう言うと若者達はザワザワと引き上げていった。
 どこかで消防車のサイレンが聞こえたような気がしたが、やがて元の静寂が戻ってきた。

 バイトから戻った長男を中心に、狭い部屋の小さな炬燵の上のすき焼きとカニをほうばりなが、その夜はこの話題でもちきりだった。

 ひさしぶりに揃った家族のにぎやかな笑い声が、夜遅くまで途切れなかった。

つづく

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