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<旅> 私たちを乗せたタクシーは、ネオンが輝くマニラの繁華街へ向かっていた。車は古い日本車だった。運転もかなり荒っぽく、時折KEIKOが悲鳴を上げた。 S氏は運転手と旧知の仲のようで親し気に会話していた。 やがて正面に20階はあろうかというような白亜のビルが見えてきた。大統領一家が経営するホテルだとS氏がいった。車が玄関に着くと、兵士のような物々しい装備のガードマンが近寄ってきた。S氏は彼に何か一言二言いうとそのまま建物の中に入っていった。私たちは無言で後に続いた。 ロビーに入るとすぐにボーイが近寄ってきたが、S氏の言葉に応えて地下へ招いてくれた。地下のカジノの入り口でボディチェックを受けた。私は「チャイナ?」と聞かれた。なぜかKEIKOは「インディア?」と聞かれていた。彼女は「ノー!ジャポン」と応えながら、よほど可笑しかったのかカラカラと大きな声で笑った。係官もつられて笑った。張り詰めた空気が一度に和んだ。 カジノの中に入ると、薄暗い室内はかなり広く、いくつものテーブルが、そこだけ明るく浮き上がって見えた。ルーレットやポーカーのテーブルには、ひときわ大きな人だかりが出来ていた。 ゲームは簡単だった。またたく間にKEIKOは5000円ほどを勝った。彼女が私にも賭けるようにすすめたが、私は乗らないでいた。そのうち、オーナーの男性が何かKEIKOに囁いた。そろそろゾロ目が出るということのようだった。賭金が何倍かになるらしかった。私が全額賭けろとすすめたが、なぜかKEIKOは賭けなかった。サイコロがクルクルと回転して止まった。隣のインド人の老婦人が嬌声を上げた。見事なゾロ目だった。 |
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結局私たちは2000円程の勝ちとなった。S氏はどうやら負けたらしく不機嫌な様子だった。今日のお礼にと食事に誘うと、行きつけの日本食の店があるから行こうといった。もう機嫌は直っていた。 人と車がひしめき合い、酒や料理の臭いが鼻をつく歓楽街の一角でタクシーを降りると、S氏は足早に歩きはじめた。さかんに声をかけてくる風俗らしい女性達をやり過ごしながら、私たちもはぐれないようにS氏の後に続いた。
どこをどう歩いたのか、突然目の前に赤い大きな提灯の下がった店が現われた。此処だというようにS氏が扉を開けてニコリと笑った。細長い店内は結構混んでいた。障子や和紙の明かり、壁には凧や浮世絵などが貼られて、いかにも外国の日本情緒という感じだった。 少しはだけた感じの着物姿が悩ましい現地の若い女性の、けっこう達者な日本語の案内で奥の和室に通された。早速S氏お勧めの和定食を頼んだ。焼き魚に握り飯と味噌汁のごく普通の定食だった。美味しいというほどのものではなかったが、それでも異国での日本の味に気持は和らいだ。 さかんに食事の礼をくり返すS氏に逆に恐縮しながら、ホテルに戻ったときにはすでに夜半を過ぎていた。 |