<マイホーム>

 昭和53年9月、子供たちの夏休み明けを待って私たちは新居に移ることになった。
思い切って電話を入れて、わずか1ヶ月足らずで夢が現実になるとは・・まさに狐につままれたような気持ちだった。

 アパートからの引っ越し、子供たちの転校の手続きなどバタバタとした日々が続いたが、それもなんとか済んで、ガランとした新居に家族4人が落ち着いたのは9月の中旬だった。

 新居は白いスタッコ仕上げの外壁の総2階。1階に12畳の洋間と10畳の和室に台所、トイレ。2階は浴室と洗面所、12畳の洋間がふたつだけのシンプルな間取りになっていた。玄関周りと庭のテラスは赤い焼レンガが敷き詰められ、ニ本のシュロの樹とケヤキの若樹が庭のポイントになっていた。周囲は白いブロック塀と山茶花の植木が囲み、庭には芝生の緑があざやかだった。

 私たちは、しみじみとした思いで部屋の壁を撫でたり、ゴロリと寝転んでは床の絨毯の感触を味わった。自然に笑みがこぼれるのを感じていた。夢のような気分だった。

 モデルハウスというだけあって、カーテンや照明器具も揃っていてどこも手を入れる必要はなかった。それでもアパートから持って来た家具類は、新しい部屋にはあまりに陳腐にうつった。人目に触れるものだけでも新しいものに変えることになった。

 さっそくKEIKOの家具選びが始まった。居間の応接セット、書籍棚、食器棚にダイニングテーブル、夫婦のベッドと子供たちのベッド、学習机、本棚などなど、安いもの探しだったが喜々とした品選びが続いた。

 私は黙って見ていた。私と彼女の好みは近いものがあるので、彼女のセンスにまかせておけば心配なかった。あっというまに家の中は二人の好みの調度品で埋まっていった。
 わずかに残った貯えもすっかり消えていたが、たいして気にはならなかった。今は夢のような現実に酔っていた。

 この家のセールスポイントに星空が見えるという2階の浴室があった。その浴室は2階部分まで吹き抜けになった玄関の上の斜めのガラス窓に面していて、入浴しながら星空が眺められるという話だったが、現実は浴室の窓を開けるとガラスが湯気で曇ってほとんど無理だった。
 さらにとんでもないことが判明した。夜の入浴時に玄関から見上げると、その斜めのガラス窓が鏡のような状態になり、浴室内がすっかり写って見えるという意外な結果だった。
 さらに他家のニ階からも見えそうな気もしたので、ちょっと惜しい気もしたがあわてて窓を曇りガラスに変えた。それでも、昼間の入浴では窓を開ければ青空が見え、解放感のある気分を楽しめた。

 日曜日には庭のテラスでバーベキューに興じた。ケヤキの緑が少し色づいて心地よい風にそよぎ、芝生では飼い始めた雑種の子犬がボールにたわむれている。新しい友人たちと遊ぶ子供たちの楽しげな嬌声が家中に響いていた。

 まさにカタログにあるような、しあわせな家庭の風景だった。

つづく

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