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<出産> 10月20日午後6時。私は急な電話で病院に呼ばれた。 まだ出産予定日には間があったが、陣痛が始まったということだった。すでにKEIKOは処置室に運ばれていた。 駆けつけた私に担当の医師が言った。 なすすべのない時間が流れた。私は、駆けつけた叔母達とひたすら母子の無事を祈った。皆が無言だった。祈りをこめて手術中の赤い灯を見つめていた。
午後9時55分。赤い灯が消えて、昂揚した表情の医師が部屋から出てきた。 男の子だった。2600グラムに満たない小さな赤子だった。
「は〜い!お母さんですよ〜」 |
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KEIKOの産後の症状は軽く、他の産婦達と同じ大部屋に移されていた。 乳の出が良いようにと懸命に乳房を揉むKEIKOに看護婦が言った。
授乳の度に彼女の表情に寂しさが走った。幾度か自分の乳をくわえさせては、母親の授乳を体感しようと試みてはいたが、やがてそれも諦めたようだった。 私は仕事が終ると毎日病院に駆けつけた。日ごとに大きくなるわが子と、それを目を細めて抱きかかえるKEIKOの姿が愛しかった。彼女は私の顔を見ると、早く家に戻りたいと言って拗ねてみせた。
KEIKOの入院はさらに1ヶ月に及んだ。後から入院してきた産婦が出産して退院して行くのを寂しげに見送っていた。わが子といっしょに居られることだけが救いだった。
「はい、もう退院出来ますよ。よく頑張りましたね」 |