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<出産> 夏の暑さにも陰りが見えはじめ、KEIKOも順調そうだった。元気に動きを増すお腹の子に話し掛けるようにつぶやいたり笑ったりしながら、小さな産衣を揃えてみたりして母親になるのを楽しんでいるようだった。
「少しむくみが出てるみたい・・・」 10月に入って最初の検診日だった。行きつけの医者の表情が変った。私にもすぐに来るように連絡が入った。慌てて駆け付けると、 いくつもの病棟が立ち並ぶ大きな病院だった。広いホールは来館の人でごった返していた。 私たちはあっけに取られた表情で、なすがままに従うしかなかった。KEIKOの症状はそれほどに緊迫しているようだった。 |
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独特の乳の甘い香りがただよう産科病棟の廊下を進むと、大きなお腹をした入院中の女性達が、もの珍し気に私たちに眼差しを送ってきた。私は冷静さをよそおっていたが、女性ばかりの雰囲気に何処とない面映さを感じていた。
「かわいい〜!」 私たちはベッドが二つ並んだ小さな病室に案内された。 けげんな顔の私たちに向かって年配の看護婦が告げた。 KEIKOの身体になにかとんでもないことが起きているようだった。
「ねえ、パパ、どうしよう・・・」 私たちは無言のまま暗い部屋の中を見回していた。 |